認知症の人のひとり歩きガイド


認知症の人がひとりで外へ出て、帰れなくなる。その場面を「徘徊」と呼ぶとき、私たちはすでに大切な何かを見落としている。

 

警察庁の統計によれば、認知症やその疑いによる行方不明の届出件数は2024年に1万8121人に上り、この13年でほぼ倍増している。1日あたり約50人が姿を消す計算だ。しかし数字の向こうにある事実は、「うろついている」のではなく、「どこかへ行こうとしている」ということだ。

 

歩き出す理由は一つではない。記憶が過去に引き戻され、「仕事に行かなければ」という使命感で玄関を出る人がいる。昔住んでいた家を目指して歩き続ける人がいる。家族の顔がわからなくなり、知らない人がいる家から逃げ出す人がいる。空腹や喉の渇き、腰の痛みといった身体的な不快感が言葉にならないまま、足を動かすことで表れる場合もある。

 

周囲には「目的のない徘徊」に見えても、本人の頭の中には、必ず「行かなければならない理由」がある。その理由を否定したり、力ずくで止めようとしたりすれば、本人は「ここは怖い場所だ」という感情だけを抱いて、さらに外へ向かう衝動を強める。

 

「止める」ことだけに集中するより、「なぜ歩き出したのか」を問う姿勢が、根本的な対応への入り口になる。ひとり歩きが起きたあとに行動パターンや時間帯を記録し、専門家と情報を共有することで、対策が感情的な制止から環境の設計へと変わる。

 

そして、ひとりで抱え込まないことが、すべての土台だ。自治体のSOSネットワークへの事前登録、近隣や馴染みの店への周知、地域全体での見守りの文化——これらは、特別な施設や高価な機器がなくても今日から始められる備えだ。

 

「外出は生きるための行為だ」という視点を、地域が共有すること。その一歩の意味を知ることが、命を守る最初の扉になる。


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