過去の大規模災害では、犠牲者の過半数が高齢者に集中している。身体的な制約、判断の遅れ、情報収集の難しさ――これらが重なることで、「逃げたくても逃げられない」状況が生まれる。夜間に浸水や土砂災害が発生した場合、暗闇と停電が追い打ちをかけ、一人暮らしの高齢者の自力避難はほぼ不可能に近くなる。
見落とされがちなのが「災害関連死」だ。建物の倒壊や津波による直接的な被害だけでなく、過酷な避難生活のなかで体調を崩して命を落とすケースが、高齢者に多く発生している。生き延びた後にも、命の危機は続く。
逃げ場所の選択肢は「避難所」だけではない。建物の安全が確認できていれば、住み慣れた自宅での「在宅避難」が、環境変化に弱い高齢者や認知症の人にとって現実的な選択肢になる。一方で、停電・断水が続くなかで高齢者のみの世帯が自己完結できるかどうかは、冷静な判断が必要だ。要介護者には「福祉避難所」という選択肢もあるが、これは災害直後に直接向かう場所ではなく、一次避難の後に移動する二次避難先だという点を押さえておきたい。
備えの順番にも注意が必要だ。水や非常食より先に整えるべきは「死なないための住環境」だ。建物の耐震性の確認、家具の固定、窓ガラスへの飛散防止フィルムの貼付。これらは、備蓄品が役に立つ「その後」に生き残るための前提条件になる。
個人の備えと同時に、周囲とのつながりが命を守る。担当のケアマネジャーとの事前相談、自治体の避難行動要支援者名簿への登録、近隣との顔の見える関係づくり。「自分一人で何とかする」という発想の限界を認識し、自助・共助・公助を組み合わせることが、現実的な生存戦略だ。
備えは、生き残った人だけが使える。今日できることを、ひとつから始めてほしい。
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